房室ブロック(AV block)

房室ブロックとは、何らかの原因で、心房と心室間の房室接合部で興奮伝播が上手く出来ない状態の総称です。

P波からの基本的な不整脈診断の流れ

重症度分類

1度房室ブロック

2度房室ブロック(ウェンケバッハ型、モビッツⅡ型、2:1、高度)

3度房室ブロック(完全房室ブロック)

病変部位分類

AHブロック(房室結節内の伝導遅延もしくは伝導途絶):図①

BHブロック(ヒス束内の伝導遅延もしくは伝導途絶) :図②

HVブロック(ヒス束遠位部以下の伝導遅延もしくは伝導途絶):図③

AHブロックよりは、BHブロックとHVブロックの方がペースメーカ植込みの適応となりやすいです。

房室ブロックの原因

高齢による房室接合部の組織変性と線維化など原因が明らかでないもの(特発性)
急性心筋梗塞
心筋炎
拡張型心筋症
心サルコイドーシス
膠原病
先天性心奇形(修正大動脈血管転移、心室中隔欠損など)
開心術後
カテーテルアブレーション術後
TAVI(経カテーテル大動脈弁治療)
迷走神経の過緊張 など

1度房室ブロック

1度房室ブロックはPR間隔が0.20秒以上(5mm以上)延長した状態ですが、P波の後に必ずQRS波が続きます。

1度房室ブロックで1番多い原因は特発性(原因不明)であり、その多くは1度以上に進行しない事が多いです。

ただし、心アミロイドーシスや心サルコイドーシスなど、進行性の基礎疾患がある場合は、要経過観察が必要です。

高齢者で0.22秒程度の例は多くみられるため、病的な延長は0.24秒(6mm)以上と考えられています。

一目でPR間隔が長いと判断するためのコツ

P波の幅とP波からQRS波までの基線部の幅を比較します。基線部の方が長い場合はPR間隔が異常の可能性が高いです。

2度房室ブロック ウェンケバッハ型

ウェンケバッハ型房室ブロックは、PR間隔が徐々に延長してQRS波が欠落します。

ウェンケバッハ型房室ブロックの病変部はAHブロックが多いです(下図)。
そのため、ペースメーカの適応にはなりにくいです。

2度房室ブロック モビッツⅡ型

モビッツⅡ型房室ブロックは、PR間隔は変化せず突如QRS波が欠落します。

モビッツⅡ型房室ブロックの病変部はBHブロックまたはHVブロックであり、AHブロックはありません。
そのため、ペースメーカの適応となりやすいです。

ウェンケバッハ型とモビッツⅡ型の見分け方

ウェンケバッハ型とモビッツⅡ型の簡便な見分け方は、欠落したQRS波の前後のPR間隔を比較することです。ウェンケバッハ型の場合、欠落した前のPR間隔が最大に、欠落した後のPR間隔が最小になっているので、この2つを比較すると見分けやすいです。モビッツⅡ型では欠落した前後のPR間隔は変わらないです。

高度房室ブロック

高度房室ブロックの定義は、3:1伝導以下または連続で2拍以上QRS波が欠落する事です。

1拍のみ欠落するのであれば症状は起きにくいですが、2拍以上欠落した場合に下位中枢からの補充収縮がなかなか起きないことが多いため、長いポーズとなり「めまい」や「失神」などの症状が出現します。

補充収縮と補充調律(エスケープ・ビート)

補充収縮とは洞結節からの刺激が何らかの理由(洞房ブロックや房室ブロックなど)で下位中枢に伝わらなかった場合に、下位中枢から刺激が発生することです。これは、心臓を長時間停止させないための生理的保護作用です。

補充収縮は1拍のみ、補充調律は2拍以上連続して続いた場合をいいます。

補充収縮 ⇒ 1拍のみの場合

補充調律 ⇒ 2拍以上連続して続いた場合

3度(完全)房室ブロック

3度房室ブロックは心房からの刺激を全く心室へ伝える事が出来なくなり、心房と心室の収縮が別々に起こっている状態です。心電図上ではP波とQRS波が全く無関係に出現します。

房室解離

房室解離は読んで字のごとく心房と心室の調律が解離して、別々の動きをしている(連動していない)状態の事です。

房室解離のメカニズム

① 洞調律が下位中枢の調律より、非常に遅くなった場合

② 下位中枢の調律が洞調律を上回り亢進している場合

③ ①と②の両者が組み合わさった場合

房室解離は上記メカニズムが解消された場合で、P波がQRS波の不応期の外にあるときは、心房の興奮は心室に伝導してP波とQRS波は1:1でつながります。

一方、完全房室ブロックも心房と心室の調律が解離しているという観点から房室解離しているという事になりますが、P波がQRS波の不応期の外にあっても、P波とQRS波が繋がる事はありません。その様な観点から完全房室ブロックと房室解離とは別個のものとして取り扱われることが多いです。

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